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食の大正・昭和史 第五十六回
2009年12月24日

『食の大正・昭和史---志津さんのくらし80年---』 第五十六回

                              月守 晋


●高等女学校で使われていた割烹指導書

ラジオ放送だけではなく大正末期から昭和初期にかけて、雑誌や単行本を媒体として食肉や加工肉、洋野菜や牛乳、バター、マヨネーズなどを使う西洋風料理が一般の家庭にも徐々に取り入れられるようになっていた。

シナ料理も大正13年4月から「婦人之友」が連載した料理記事をもとに15年に出版した『素人にも出来る支那料理』がベストセラーになり、昭和7年までに十数版を重ねるロングセラーになった。また昭和4年に刊行された『四季の支那料理』は11年までに50版を数えるロングセラーになった。(『にっぽん台所文化史』)。

こうした時代の推移に教育界も反応し、家事実習に採り入れるため指導書を編輯、教室で生徒に習わせはじめた。

『最新割烹指導書(前/後編)』(家政研究会編/大正15年初版発行)はそうした教科書の一種である。編集を担当した「大阪家政研究会」は大阪府下の公私立高等女学校の家事科教員が全員所属する団体であった。その会員中から委員が選ばれ内容構成と執筆に当たった。

内容は高等女学校か同程度の女学校の最終2学年で、隔週1回2時間の実習で修得できるように編集され、料理の配列も学期ごと、季節ごとに選ばれている。

いま手元にある『最新割烹指導書(前・後編)』は前編が昭和8年3月25日発行の第8版、後編は昭和7年3月発行の第7版である。編輯兼発行者はすでに書いたように家政研究会、発行所も同じく家政研究会で、所在地が大阪市東区高麗橋2丁目三越内となっている。この三越はもちろんデパートの三越だろう。

ボール紙のケースに前・後編別々に入っている。本体は横12.5cm×縦18.5cm(B6判)、表紙は丸背・布張り・題名などは色箔押しされている。前・後編とも扉(2色)の後に4色の口絵(前編は1丁で「正月重詰」後編は2丁で「茶会の食卓飾り」と「晩餐会の食卓飾り」)、さらに白黒の写真ページが前編に9丁、後編に8丁ついている。

写真ページの内容は前編が正月用調度品、野菜の切り方(基本切の一)(基本切の二)、野菜の切り方(応用)、魚の切り方(一)(二)、魚の刺し方、料理用器具(一)(二)が掲載され後編にはナフキンの折り方(扇形)(リリ一形)(薔薇形)(冠型)、鳥の包丁法(一)(二)、台所模型(大阪市電気局懸賞一等当選)(裏面に平面図)といった内容である。

「鳥の包丁法」は丸々1羽の鶏(毛はむしってある)をどのように包丁を入れてさばき食肉にするかを6枚の写真とキャプションで図解したページである。

定価が前編は60銭、後編が70銭である。ページ数が前編108、後編162と後編のほうが54ページも多いのでこの定価になったのだろう。

ところでこの指導書にはその淡いピンク色の見返しにかつての持ち主の姓名が「五年橘(たちばな)組 松岡幸子」としるされている。後編のほうには「サチ」と片カナ表記されていて、どうやらこちらのほうが本名らしい。「サチ」より「幸子」のほうがカッコイイと考えたのではないだろうか。

この指導書を入手したのは東京神田の古本街の1軒だった。かつての所有者の「サチ」さんは大阪市の高等女学校でこの指導書で料理を実習したのだろう。卒業後結婚して東京へ移り、いろいろあって平成20年前後に所蔵する書籍を整理した、とおぼしい。

昭和8年に高等女学校5年生だとすると、5歳ほど若いがほぼ志津さんと同世代である。昭和8年から平成20年までの「サチ」さんの歳月がどのように流れたかは他人のわれわれには想像もつかないことである。


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