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食の大正・昭和史 第六十三回
2010年02月10日

『食の大正・昭和史---志津さんのくらし80年---』 第六十三回

                              月守 晋


●高等女学校の『割烹指導書』後編(1)

『割烹指導書』後編は高等女学校の最終学年となる5年生が前編と同じように隔週1回2時間の実習を1年間つづけると、卒業後すぐ結婚しても十分一家の主婦がつとまるよう編集されている。

内容は一般的な庶民の家庭というよりも中流以上、月収が130円を超える程度の余裕のある5人家族の家が想定されているのではないかと思われる。

ちなみに昭和8年の都知事の年俸が5300円、月額440円余りであり公立小学校教員の初任給は月額40~55円、大工の手間賃は1日わずか2円だった(上記数字の出典は『物価の文化史事典』)。

さて、下巻の第1課は「西洋料理」の朝食で内容は次のとおりである。

・ハットケーキ(表記は原本のまま)
・オートミール
・ハムエッグ
・林檎(リンゴ)砂糖煮
・コーヒー

ホットケーキの材料は

メリケン粉200g  玉子100g(2個)  焼粉(ベーキングパウダー)5g  砂糖80g  牛乳1デシリットル(100cc)  バタ40g  砂糖蜜0.5デシリットル

材料がそろったらまず生地を作る準備。

1 メリケン粉を3~4回ふるいにかける
2 摺り鉢に卵黄を入れ、砂糖をふるいながら加え、摺りこ木でよく摺り混ぜる
3 卵白を泡立てておく

・作り方

準備2の摺り鉢に牛乳を加えてよく混ぜ、次に1のメリケン粉をさらにふるいながら入れて軽くかき混ぜ、3の卵白と焼き粉を加えてさっと混ぜ合わせる。

ホットケーキパン(フライパンでもよし)を火にかけ、バタを引き、上記の生地を金杓子ですくい、適当な大きさにひろげて焼く。

温かいうちに砂糖蜜をかけて供す。

お読みになればおわかりのように、このころはホットケーキ1枚焼くのにもずいぶんと手間をかけていたのだ。いまは小麦粉に砂糖や麦芽糖、ショートニング、コーンスターチ、食塩、脱脂粉乳、植物油脂その他もろもろを加えて調合した「ホットケーキミックス」をスーパーあたりで買ってきて、牛乳と卵を割り入れてフライパンで焼けば簡単に出来上がる。

簡単で便利といえば便利だが、味気ないような気もするがどうだろうか。

この朝食メニューで注目されるのはオートミールである。オートミールは燕麦(えんばく)のおかゆだ。これも現在はインスタント食品として容易に手に入る。しかしこの指導書では二重鍋で煮ることになっているから、オートミール用にひき割りした燕麦がデパートや西洋食品専門店などで売られていたのであろう。

さて、次はコーヒー。覚めやらぬ脳髄に活気を与えるために濃いめのコーヒーは良い選択だが、この指導書ではどうやら煎(い)ったコーヒー豆を豆のまま使うらしい。指導書の解説文をそのまま引用すると、
「コーヒーポットにコーヒーを入れ、熱湯を注ぎて火に掛け、沸騰したる時直ちに火よりおろしてコーヒーカップに注ぎ、・・・・・・」
とある。

これを読んで思い出すのは学生のころ観たアメリカ映画の西部劇である。夜になって野営をするカウボーイたちが焚き火の上にやかんを掛け、コーヒー豆をひと握りほうり込んで沸くのを待つ。

高等女学校生がポットに入れるコーヒーは30g、大さじ5杯分のコーヒー豆である。「豆」と断定した理由は「但し粉末コーヒーを用ふる時は分量を減ずる事」とわざわざ注意書が入っているためである。


米原万里
2010年02月10日

32. 「ウェハースをチョコレートでコーティングした人気菓子の名「ミーシカ」とは熊の愛称。」
    

       ------------------------------『旅行者の朝食』米原万里 

「ジョークと小咄(ばなし)は、ロシア人の必須教養」だと米原さんは断言しています。さらに「平均的なロシア人ならば少なくとも五百ほど、どんなに生真面目優等生タイプの人であれ、最低三百ほどの小咄の蓄えがなくては一人前扱いされない。」とも。

米原さんはお父さんの仕事の関係で1954~64年までプラハのソビエト学校で学び、その後東京外国語大学ロシア語科を卒業、さらに東京大学大学院でロシア語・ロシア文学修士課程を修め、80年に創立されたロシア語通訳協会の初代事務局長、さらには会長を3年間務めたというロシア語の大専門家。

その米原さんが長年、なぜそのフレーズを耳にしたとたんロシア人がみな「クックック」「ウフフ」、ユサユサとお腹を揺すらせて笑うのかわからなかったことばがありました。

それが「旅行者の朝食」。

この言葉になぜロシア人が“過剰反応する”のか、その謎はモスクワ大学の先生から聞かされたたった1つの小咄で氷解します。

それはどうやら「中味よりも、缶に使われているブリキの品質が上等なので日本の商社がそのブリキ目当てに買いつけるらしいという噂の缶詰」の名称だったのです。

それはとりもなおさずその中味が猛烈にまずい、ということ。

いったいどれほどまずいのか、是非とも賞味したいと思っていた米原さんはあるときロシアに出張した折に、スーパーマーケットで実物を発見します。

「旅行者の朝食」は1種類だけではなく、牛肉ベース、鶏肉ベース、豚肉ベース、羊肉ベース、魚ベースと結構な品ぞろえ。

その中身はというと「肉を豆や野菜と一緒に煮込んで固めたような味と形状」をしているが「ペースト状ほどには潰れていない」、ちょうど「犬用の缶詰」によく似ていたのでした。

米原さんが「旅行者の缶詰」のエッセイをある企業の宣伝誌に書こうとした98年には、もうモスクワの街から姿を消していたそうで、後に残ったのは、

ある男が森の中で熊に出くわし聞かれます。

「お前は何者だ?」

「私は旅行者ですが」

「いや、旅行者はおれだ、お前は旅行者の朝食だよ」

という、まあたわいもない小咄だったと。

かつてロシアの食べ物のまずさは有名な事実で、いろいろな人がそのことに触れていますが、米原さんの発見した「大当たり!!」の安くてうまい掘り出し物の缶詰は「鱈(たら)肝の缶詰」で、グルメを自称するフランス人が「このフォアグラ、かなりいい線いってるよ」とコメントしたほどだそう。


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