『食の大正・昭和史---志津さんのくらし80年---』 第七十回
月守 晋
●婦人雑誌のすすめる家庭料理(1)
昭和6年3月号の「主婦之友」には不景気だった時世を反映してか「一人前十銭以下」でできる「春先きの惣菜料理三十種」が紹介されている。
「惣菜」は日常の食事の副菜、つまり毎日食べる食事のおかずである。
昭和6年当時、10銭で何が買えたかというと、以下の通り。
白米(2等)約600グラム 牛肉30グラム 塩1.35キログラム 醤油約2合
豆腐2丁半 鶏卵3個 砂糖285グラム
さて、1人前10銭の春のお惣菜。
①蛤(はまぐり)の串揚げとキャベツの芥子和え
蛤のむき身をよく洗って水気を拭き取り、3,4個ずつ串に刺してメリケン粉とパン粉をつけ、ラードまたは油でキツネ色に揚げる。
糸きりのキャベツをさっと熱湯に通し、よく水気を切って芥子をといた酢醤油に浸して串揚げと盛りつける。
<材料費> 蛤のむき身 1人分5銭 キャベツ1銭 その他の材料 4銭
②鱈のパイ
鱈、じゃがいも、牛乳、玉ネギを使った現在のグラタンのような料理。
<材料費> 鱈1人当り 3銭5厘ほか総計で10銭。
③1人前10銭のチキン・ホットパイ
④1人前9銭5厘の豆腐のキャベツ巻
豆腐、人参、むき身をいり、キャベツで巻いて煮込む。味付けは醤油、あんかけにする。
<材料費> 豆腐1人前半丁で2銭5厘。人参、キャベツ、むき身が5銭。調味料2銭。
⑤1人前9銭の炒溜糖醋魚片(チャリュウタンゴウペン)
白身魚を薄くそぎ切りにして塩少々をふり片栗粉をつけてキツネ色に揚げる。斜め切りのねぎ、もやし、生姜の薄切りをラードでいため、魚を加え、醤油1・酢1・スープストック2・砂糖と味の素少々を混ぜ合わせたたれを加えてからめる。
<材料費> 魚1人分 100グラム5銭、もやし1銭、生姜とねぎ1銭、他計9銭
⑥1人前10銭の水餃子(ぎょうざ)
⑦1人前10銭の豆芽炸粉(チャツイサーフン)春さめと豚肉のスープ煮
豆そうめん(春さめ)、もやし、玉ねぎ、ほうれん草、豚肉のスープ煮。豚肉と玉ねぎは前もってラードでいためておく。
<材料費> 春さめ3銭、豚肉23グラム3銭5厘、もやし、ほうれん草各1銭、他。
⑧1人前9銭の紅焼白菜(ホンショウペーサイ)白菜とカニのいため煮
<材料費> 豚肉25グラム4銭5厘、白菜としいたけ3銭、その他1銭5厘。
以上8品は東京割烹女学校長秋穂敬子の指導によるもの。
青山割烹講習会長宇多繁野の指導する8品は5人分45銭から50銭の料理。
①むき身とわけぎのぬた 35銭
②まな鰹(またはかれい)の酒蒸し、50銭
③むき身のくわい衣揚げ 45銭
赤貝、あさりなどの貝をすり下ろしたくわいの衣をつけ胡麻油で揚げる。
④豚・こんにゃく・人参の胡麻味噌だき 50銭
⑤このしろの生姜味噌焼き 31銭
⑥さつま飯 45銭
土佐の名物料理、小鯛を使う。
⑦八宝菜 50銭
われわれが現在食べているのはいため物だが、ここで解説されているのは豚肉、白菜、玉ねぎ、人参、竹の子、いんげんをたっぷりの水で煮込む清し汁。片栗粉でとろ味をつける。
⑧焼蟹捲(シャオハイキン) 50銭
カニの玉子巻き。