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食の大正・昭和史 第七十六回
2010年05月19日

『食の大正・昭和史---志津さんのくらし80年---』 第七十六回

                              月守 晋


●京都の路面電車

新婚当時の哲二の職業は京都市営の路面電車(正式名称は「京都市営電気鉄道」)の修理工であった。

京都はよく知られているように日本の都市ではいちばん最初に路面を営業電車が走ったまちである。

それは明治28(1895)年2月1日のことであり、走らせたのは「京都電気鉄道株式会社」であった。区間は塩小路東洞院から伏見油掛まで6.7kmの伏見線である。同年4月には木屋町鴨東線(京都駅前―木屋町二条―南禅寺)の4.6kmと木屋町二条―堀川中立売間の2.8kmが開通した。その後も路線を延ばしていったが、明治45年6月11日に市営電車が営業を開始、京電と市電の併立時期に入るのだが大正7年7月、市電が京都電気鉄道株式会社を買収し統合された。市電のほうは1435mmの標準軌間だった。

明治28年に初めて京都市内を走った電車は長さ約6m、幅約1.8mの定員16名という小型のもので、車体は木製で開業当時は動力のモーターが1個だったがその後2個に改装された。モーター1個では力不足だったのである。

京電の軌間(レールとレールの間)は1067mmの狭軌で単線、定員はすぐに28人に訂正されているがスピードは時速約10kmだった。現在42.195kmのマラソンを世界のトップランナーなら男性の場合2時間05分台で走るのに比べるといかにものんびりしている。

実際に開業当時は正式の停留所が設けられてなくどこでも乗れ、「降ろしとくれやす」と声をかければどこででも自由に降りられたのである。

その電車を走らせる運転台には正面にも左右にも囲いがなく、雨のときには雨合羽(あまがっぱ)を着こみ、降雪のときには防寒具を身につけて運転しなくてはならなかった。

しかも京都府の「電気鉄道取締規則」によって「告知人」を乗せていなくてはならなかった。告知人は12歳から15歳くらいまでの少年で会社の直接雇用ではなく、請負いの親方のところから送られてくる。つまり“派遣労働者”だった。

少年たちの仕事は道路の交差するところや通行人の多い街路にくると電車から飛び降りて電車の前を走りながら「電車が来まっせ、危のおまっせ!」と叫ぶのである。明治29年1月現在で21名の告知少年がいたというが、社名入りの半纏(はんてん)を着て昼は旗、夜は提灯を持って“先走り”した。そして電車が無事通り過ぎた後、電車を追いかけて走りふたたび飛び乗るのである。飛び降り飛び乗りに失敗してけがをする少年も多く、会社は再三先走りの廃止を市当局に願い出るが「夜間のみ廃止」が認められたのが31年9月のことであり、電車の前面に救助網を取りつけたりして事故防止に対処したため37年11月にやっと全廃になった。

乗車賃は1区2銭で2区が4銭、半区1銭という区間制だった。3区半だと7銭という計算になる。割安の回数券もあり54区分で1円、60区分も1円だった。通学乗車券は2区間1か月分が1円25銭(大正7年当時ですでに市電になっている)である。

哲二が市電からもらっていた給料がどれほどだったかはわからない。新婚当初、志津さんは哲二から毎月15円渡されていた。15円あれば2人分の生活費としてじゅうぶん足りたし、残業手当もついていたので余裕があった。哲二は煙草は吸ったが酒は下戸で盃1杯飲むと真っ赤になって寝てしまった。ただ賭け事が好きでよく競馬場に出かけた。しかし生活費を喰い込むようなことはなく、たまにもうけたときには生活費の足しにと渡してくれた。

しかし結婚して数か月後、哲二は市電をやめて国鉄(日本国有鉄道、JRの前身)に勤めを変えている。


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