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食の大正・昭和史 第八十五回
2010年07月28日

『食の大正・昭和史---志津さんのくらし80年---』 第八十五回

                              月守 晋


●鞍山製鉄所

満鉄の鞍山製鉄所が銑鉄の販売を開始した1919(大正8)年には第1次世界大戦のさ中だったので価格が高騰しトン当り125円だったが、大戦が終結した20年には77円、翌21年には46円に暴落したと『満鉄四十年史』(財団法人満鉄会編/吉川弘文館/2007年)が述べている。 「予定していた製鋼工場の建設は中断され……第二高炉も19年度中に完成したが操業を見合わせ……」という状況に見舞われたと。

もともと鞍山の鉄鉱石は鉄鋼含有量が40パーセント以下という貧鉱だった。 これを製造現場所員の研究が実を結び特許を取得した「還元焙焼法」によって乗り切り、第二高炉も稼働させることによって20年に91円19銭だったトン当り生産コストを第二高炉稼働後の28年には28円52銭にまで引き下げることができたという。 蘇崇民(元吉林大学日本研究所教授)の『満鉄史』によると毎年、日本政府から100万円の補助金が下付されていた、と書かれているが、鞍山製鉄所は創設時から官営の八幡製鉄所の支援を受け初代所長も八幡の技師であり、操業開始時に百数十人の八幡の熟練工が家族とともに移住してきていたのである。

しかし赤字体質に変わりはなく、生産を開始した1919年から1933年の15年間のうち黒字を計上したのは28年と29年の2年間だけで、15年間の累積赤字額は3321.6万円に及んでいる(『満鉄四十年史』)。

こうしたなかで製鉄所の組織改編がこころみられたが満州国の建国(1932[昭和7]年3月)以後の33年、鉄鋼を一貫生産する昭和製鋼所となり、37年には満州重工業開発株式会社の系列下に入っている。

むろん、こうした実情を把握したうえで、哲二が鞍山へ向かったとは思えない。

しかし哲二は鞍山に到着してほどなく小山さんの手引きで製鉄所の臨時雇工として働きはじめた。

製鉄所は工場用地、水道用地、市街地用として合計1996万平方キロの土地を買収していた。 製鉄所の「付属地」として「10万人規模を想定した市街地は製鉄所からの煤煙(ばいえん)を避ける位置に建設され、幹線道路は幅36メートル、駅前と中央通りには方形広場が」設けられていた(『満鉄四十年史』)。

哲二が渡満した1933(昭和8)年より2年前の31年、鞍山には6606人の日本人と9337人の中国人が住んでいた。 (『満州の日本人』塚瀬進/吉川弘文館/ちなみに日本人人口が最も多いのは奉天(瀋陽)の2万3739人。 長春(新京)には1万630人が住んでいた)

そのほとんどは製鉄所の社員、工員だったろう。

鞍山の市街は奉天へ向かう鉄道路線に沿って南北に延びており、駅から北東方向に東方連山と呼ぶ丘陵地があり、その小高い丘に鉄条網で囲まれ、守衛の常駐する三笠街と名づけられた住宅地があった。
広い庭つき、世界でも最新式といわれる暖房装置が設備された25軒の住宅である。 ここに住める家族は帝大工学部などを出たエリート社員一家であり、各製造課の課長を務める夫・父親を持つ人びとであった。

この住宅地の隅に巨大なボイラーの建物があり、各家庭にパイプでスチームが送られていて冬でも薄着でくらすことができた。

製鉄所に就職したときの初任給が110円(民間会社の大卒初任給は60~70円)だったという。

製鉄所に臨時雇いとして働きはじめた哲二がどれほど稼げたかは不明である。 当時日本内地では施盤工の日給が2円25銭だった(『時事年鑑』昭和9年)。 生活費の高い満州では日本内地の2割増しといわれていたから、その計算では1日2円70銭、月に25日働くとして67円50銭になる。


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