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食の大正・昭和史 第九十五回
2010年10月13日

『食の大正・昭和史---志津さんのくらし80年---』 第九十五回

                              月守 晋


●哲二の新京転勤

志津さん一家の鞍山ぐらしが2年になった昭和12年の年末に、一家に4人目の子どもが誕生した。赤ん坊は志津さん待望の女の子だった。

年子3人の男の子を育てるには、お兄ちゃんのお古を下の子に順々に着せられるという“経済な”面もあるけれど変化は楽しめない。 男の子に赤い物や花柄を着せるわけにはいかないのである。

哲二も女の子の誕生に相好をくずして喜んだ。 夫婦は相談して誕生日を翌13年の正月3日として届け出た。

年令を満年令で数えるようになったのは昭和25年1月1日からである(「年令のとなえ方に関する法律」の公布は24年5月24日)。 数え年だとたとえ12月生まれであろうと正月がくれば否応なく1歳年をとる。 みどり子と名付けたこの女の子が生まれた昭和12年ころはもちろん年令は数え年であった。

お嫁に行くとき1つでも若いほうがいいだろうと夫婦は考えたのである。

みどり子が1歳半になった昭和14年5月、哲二は新京鉄道工場に転勤を命ぜられた。

昭和7(1932)年に「満州国」が建国され翌年2月に「満州国有鉄道」の経営と建設・改修等を満鉄が請負うこととなった。 事業の拡大に伴って機構の改革・増設が行われ社員数も増え昭和12年(「満州国」年号では康徳4年)度末で社員総数は11万6293人(うち職員1万9011人、雇員1万5761人、傭員8万1521人)を数えた。

明治40年に開設された長春駅は昭和7年11月に「新京」駅と改称され、翌8年には朝鮮の釜山―京城間の鉄道が奉天についで11月に新京まで延長された。 つまり朝鮮を南北に縦断して直接新京まで往復できるようになったのである。

「満州国」の建設と同時に長春は国都「新京」と改称され首都としての都市建設が計画され12年11月に人口50万人の最終計画が定まった。

哲二・志津の一家6人が移り住んだ昭和14年には新京市街は主要な部分はほぼ建築されていたようである。

いま手元にある14年度版の奉天鉄道局発行の観光パンフレット『新京』を見ると、新京駅前の北広場から南へ一直線に中央通、その中央通が児玉公園(日露戦争時の参謀総長児玉源太郎大将にちなむ)の横で大同大街と名前を変えて直径300メートルの大同広場へ達し、さらに建国広場まで延びている。

新都市の幹線道路である大同大街の幅員は60メートルあり、10メートルの歩道+12メートルの車道+16メートルの遊歩道+12メートルの車道+10メートルの歩道となっていて歩道と遊歩道には街路樹が植えられた。

45メートル幅員の道路は16メートルの中央高速車道の左右にそれぞれ2.5メートルの樹林帯+6メートルの緩速度車道+6メートルの歩道という構造になっていた。 新京で最も幅の狭い道路は宅地と宅地の間の4メートルの背割道路でこの道路の下に電線やガス管、上下水道管が埋められ幹線道路には1本の電柱も立っていなかった。

南北に走る道路に「街」を付け東西方向の道路を「路」と呼んで区別したが、街路に植えられた樹林の景観と南湖公園や児玉公園など数多く造られた公園とによって森の都、緑の都市と呼ばれるようになっていった。

志津さん一家が新京へ移住したころ大同大街が広場を南下して大同公園と牡丹公園にはさまれるあたりの街路の車線と分離帯の中に新都建設以前からあった孝子廟が残されていて幟旗がひるがえっていた。

子どもたちが学校へ通い始めると長男が「あの廟は道路のじゃまになるので塚ごとつぶそうとして樹を切っていたら血のように赤い樹液が出てきただけでなく鋸切りを使っていた人夫が何人も高熱を出して死んでしまったんだって。 それで残すことにしたんだって」という怪談を仕入れてきて披露した。

地元中国人の信仰を尊重して残したのだろうが日本人学校にはこんな怪談が生徒たちの間に流布していたわけである。

志津さん一家が新京に移住して最初に住んだのは吉野町の祝ビルの2階であった。

            [参考] 『満州国の首都計画』越澤明/
            ちくま学芸文庫:『満鉄付属地経営沿革全史』/南満州鉄道総裁室


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